中央大学・研究開発機構 気候変動ユニット

JCM(二国間クレジット制度)

PROJECT OVERVIEW

モンゴルにおける技術高度化事業の概要

背景

モンゴルでは気候変動により過去50年間で気温が約2.4度上昇しました。気温上昇によって国土の63%を占める永久凍土は融解が進行し、水資源の減少と草原の劣化を加速し、異常気象を誘発を誘発しています。特に、異常気象のゾド(寒雪害)は最も大きな問題となっており、特に2009-2010年のゾドでは総家畜頭数のおよそ2割に相当する1000万頭以上の家畜が死亡し、8711の遊牧民世帯が所有していたすべての家畜を失い、家畜価格が高騰しました。
遊牧は、中央アジアの乾燥地帯における環境適応の方法として、何千年にもわたって進化を遂げてきました。しかし現在、気候変動はモンゴル遊牧民の社会生態システムに大きな影響を与えており、気候変動に対する総合的な対策が必要とされています。

目的

モンゴルにおいて、グリーン開発による草原劣化防止および再生可能エネルギー利用の冷凍貯蔵技術による食肉貯蔵システムの計画・提案・導入業務を推進し、エネルギー起源二酸化炭素排出削減効果をGOSAT-2を用いて把握検証するMRV手法の確立を目指します。
さらに、気候変動の適当にもつながるような総合的な取り組みを行い、モンゴルにおける持続可能なグリーン開発・グリーン経済への移行の道筋を世界に提示することを目指します。

牧草地を保全して遊牧民の生活を安定させ、
地域全体が低炭素となる持続可能な施策実現のため
冷凍貯蔵システムを適用するプロジェクトを進めています

冷凍貯蔵技術

新しい技術のひとつとして、太陽光発電を利用した冷凍貯蔵システムがあげられます。省電力な冷凍貯蔵システムは、ゾド発生の危険が高まるときに早期収穫された食肉を貯蔵できます。冷凍貯蔵施設及び食肉流通管理は、家畜の数を環境収容力以内に抑える経済的動機付けとなり、雇用や所得の増加、食品安全性の高まりをもたらします。

国家グリーン開発計画への反映

モンゴルの環境にあった冷凍貯蔵システムの開発やゾドの発生予測の高度化、ゾド予報の配信、ゾド予報を用いた場合の食肉流通量の推定、モンゴル域の二酸化炭素の発生吸収量などといった、社会経済・地球環境を含めた幅広い研究を行ない、モンゴル政府と協力して草原劣化を防止する国家グリーン計画への反映を目指します。

このグリーン開発事業は社会変革をもたらすものですが、
伝統的なモンゴルの遊牧文化を破壊せずに遊牧ネットワークを
強化して、かつ環境を保全できる方策と考えています。

これまでの実施内容

研究・事業の体制構築

本プロジェクトを実施するモンゴルにおいて、グリーン開発による草原劣化防止および再生可能エネルギー利用の冷凍貯蔵技術による食肉貯蔵システムの設計・提案・導入業務を推進し、二酸化炭素・メタンなどの温室効果ガス(GHG)排出削減効果をGOSAT-2によって把握検証するMRV手法の確立を目指す事業を実施する為に、以下の体制構築を行ないました。

まず、2014年11月11日にモンゴル国立大学において、環境・グリーン開発省(MEGD)の気候変動特使を始めとしてMEGD所属の研究機関や、モンゴル国立大学(NUM)、国家開発局(NDI)といった政府機関の所長や環境関連の政策者・研究者など計21名を招聘し、ワークショップを開催しました。

MEGDのOyun大臣(当時)からは、JCMの実施による再生可能エネルギーを用いた冷凍貯蔵システムはモンゴルにおいて必要な設備であり、具体的な施策として事業を推進してほしいと要望がありました。
この要望を受け、MEGD顧問を始めとして気象水文環境研究所(IRIMHE)やNUMの所長や研究者など計10名を招聘し、2015年1月13・14日に中央大学においてワークショップを実施しました。
これらのワークショップを通じてそれぞれモンゴル側、日本側で事業の基盤に対する合意事項を確認し、NUMと中央大学で共同研究機関Institute for SustainabilityDevelopmentを立ち上げ、共同オフィスを開発し、IMHEとNDIが参加の下でMOUを締結しました。
この体制のもと、モンゴル国立大学のOvorzaisan屋外試験場において、施設の管理や太陽光発電の研究を行っている教授らの協力を得つつ、冷凍冷蔵システムなどの共同実験を実施できる体制を整備しました。

これらの成果は2015年3月6・7日にパナマで開催されるUNEP Global Adaptation Network Forumにて発表され、グローバル発信されました。
続いて、2015年3月17日に東京で開催される日本・モンゴル環境政策対話にて、一連の両国政策対話の中に本共同研究計画が位置づけられていることが紹介されました。

2015年以降、モンゴル国立大学(Nationa University of Mongolia)、モンゴル気象水文研究所(Information and Research Institute for Meteorology, Hydrology and Environment)、モンゴル科学院(Mongolian Academy of Sciences)と本学において、本事業の協働関係を具体的に明示し、了解事項を確認してMOU(基本合意書)を締結し、本事業の実施体制を構築いたしました。

以上の実施体制構築の下、
以下の5つの内容を中心に業務を実施しております。
  • (1) モンゴル草原を対象とする緩和と適応に係る情報収集、報告及び評価の高度化
  • (2) 草原の二酸化炭素吸収量の評価
  • (3) 再生可能エネルギーによる冷凍貯蔵システムの開発
  • (4) 再生可能エネルギーを用いた冷凍貯蔵システムの社会実装業務
  • (5) 冷凍貯蔵システムによる二酸化炭素等の削減効果を検証するMRV手法の検討業務

以下、事業開始初年度(H26年度)の業務実施概要です。

(1) モンゴル草原を対象とする緩和と適応に係る情報収集、報告及び評価の高度化

まずモンゴル草原域における気候変動の影響評価に必要なデータの収集を行いました。
具体的には、過去及び現在の気象や自然条件、社会・インフラ・経済統計、草原域における気候変動に対する脆弱性、草原利用や放牧に関する要望、畜産に係る市場情報の収集、といったデータを収集しました。
次に、適応策および適応技術に関する情報収集を行ないました。
さらに、現在モンゴル政府が適応策として実施・検討している方策と適応技術、モンゴル国外の事業からモンゴルで実施可能な適応策・適応技術、国際援助機関がモンゴルで適応策として実施・検討している方策、適応技術について調査し、開発戦略や政策をリスト化し、概要を整理しました。

(2) 草原の二酸化炭素吸収量の評価

本事業は独立行政法人国立環境研究所に再委託しました。

モンゴルの草原凍土地帯に設置している国立環境研究所のNalaikh観測サイトでCO2フラックス観測システムを設置し、既存の地上・衛星観測データを用いて生態系モデルの精度を検証した上で、実証サイトを含む周辺の草原生態系による炭素吸収量(2001-2012年)を推定し、吸収量の高い場所と低い場所の分布の違いについて分析しました。
また、エネルギー等の統計データを整備し、エネルギー生産と水資源消費量の関係を把握するためのデータベースを構築し、近年の急激な電力需要に9割以上の石炭生産で対応している電力事情について確認しました。

(3) 再生可能エネルギーによる冷凍貯蔵システムの開発

株式会社日立製作所と共同で実施しました。

太陽光発電による冷凍貯蔵システム及び定期的に測定記録するシステムを開発し、モンゴルでの試験設備設置の事前作業として日立製作所松戸開発センター内に試験装置を設置し、システムの作動記録、情報更新装置の構築・動作確認、各種試験を行いました。
試験装置の運転状況及び運転時の設置環境等、今後モンゴルに展開する場合に必要となる基本データが得られ、設置に向けた課題と検討点を整理しました。

(4) 再生可能エネルギーを用いた冷凍貯蔵システムの社会実装業務

まず、早期予報による食肉流通量の推定に関する検討を行ないました。 具体的には、家畜の生産、消費等に関する情報を収集し、ゾド後の食肉価格急騰と食肉供給量の不足について分析しました。 また、気温、降水量、植生量に対する家畜集団の生産性を指数化して既存のゾド発生予測のアルゴリズムの改善を行い、脆弱性指標を開発しました。

これらを通して過去の家畜動態から家畜減耗率を算出し、脆弱性指標との比較を通して指標の閾値について分析し、閾値設定と早期出荷による適応策のシナリオを検討しました。

次に、冷凍貯蔵システム推進に係る問題点について、慶應義塾大学と共同で分析しました。
省庁間の協力関係、法令整備、過放牧や違法な放牧の監視方法、事業を推進するための監督官庁、導入方法、補助金、牧童の意識の視点から検討を行い、牧童社会における冷凍貯蔵システムを使った食肉保存のニーズと監督体制の課題の間のギャップについて分析しました。

(5) 冷凍貯蔵システムによる二酸化炭素等の削減効果を検証するMRV手法の検討

GHG推定手法を(一社)海外環境協力センターと共同で検討しました。

まず、モンゴル国の公表データを用いて全域のGHG排出量情報を把握し、エネルギーセクター、特に熱電併給発電所が高い排出量傾向にあることを確認しました。
次に、GOSATによるGHG推定方法、精度検証とその方法について文献レビューし、GOSAT観測データは通常、地上の大型観測器や民間航空機を利用した方法で精度検証されること、及び公開中のGOSAT プロダクトである二酸化炭素及びメタンのカラム量データにおける誤差の範囲について確認しました。
最後に、GOSATデータを使用した方法による家畜からのメタン発生量の補足可能性について専門家と検討しました。

専門家からは現在公開されているデータでは困難であるが、今後公開予定のGOSATデータや別の観測方法の指定によって補足できる可能性があるという意見を得ることができました。

次に、MRV手法の検討を株式会社日本総合研究所と共同で実施し、冷凍貯蔵システムの稼働による個別の直接削減・間接削減のプロジェクト活動についてMRV手法を検討しました。

直接削減のプロジェクト活動については、JCMに基づいたプロジェクト活動として実施する際の条件として適格性要件・リファレンスシナリオ等を分析した上で、MRV手法として確立できる「再生可能エネルギーによる系統電力代替」について詳細に検討しました。
間接的な排出削減のプロジェクト活動については、主にREDDを対象にJCMにおける検討状況を整理し、MRV手法の検討に必要な課題を整理しました。